心理カウンセリングはどう役立つか


 
 これまで10年以上臨床活動をいろいろな領域で行ってきて「カウンセリングって意味があるんですか?」と問われることが度々ありました。「ただ、うんうんって聴くだけなんでしょ?」なんて言われることもありました。確かに心理カウンセリングや心理療法という言葉はよく使われるようになりましたが、まだまだ中身や内容については浸透していないように思います。

 また、その中身について語る際に、一般化できないゆえの独特の難しさが語る側にとってもあるように思います。

 以前あるシンポジウムで臨床心理士と共に仕事をしてきた哲学系の専門家の方が「心理士は自分の仕事を語る言葉を持っていないように思う」という主旨の発言をしていたのですが、これは本当にその通りだと思います。

 実際「心理カウンセリング・心理療法とは何なのか、何の意味があるのか、どんな効果があるのかを患者さんや他職種にわかりやすく説明するにはどうすればいいか」という問題は私にとって常に考え続けるべき重要な問いだったように思います。

 これから心理士として現場に出る方にとってもこの問題はとても重要なものではないかと思います。自分が何をする専門家なのかをきちんと自分の言葉で周囲に説明し、理解してもらうことが大切なことは言うまでもありません。自分がやっている「セラピー」や「心理カウンセリング」「心理療法」を同業者以外の方に対して「説明できる」ということは非常に大切なスキルだといえるでしょう。

 今日はこれまで講義や勉強会で使った資料をもとに、心理カウンセリング・心理療法の意義や効果について書いてみたいと思います。教科書的、専門的な説明ではなく、実際的な説明になるように心掛けて書きたいと思います。

 心理カウンセリング・心理療法によって得られるものを私のこれまでの臨床経験や学びに基づいて示すならば以下のようになります。

1.発散・安心感・受容感
2.問題の整理
3.助言(別の視点の提供)
4.(知的な)理解・気づき
5.症状、問題行動の緩和、消失
6.(情緒的体験に基づいた)理解・気づき
7.悩み考えることの学習

上記は数字が大きくなるほどに時間がかかるとお考えいただいてよいかと思います。それぞれ少し詳しく見ていきます。


1.発散・安心感・受容感
 これは相談者様が辛いことや苦しいこと、誰にも話せないことを語り、「すっきりした」とか「聞いてもらえて安心した」、「受けとめてもらえた・理解された」といった体験を得ることです。実生活の中でも誰かに話を聞いてもらうことで体験することがあるかと思います。「話す」ことは「放す(離す)」ことであり、自分の心の重荷を相手に一部持ってもらい、負担が減るといった体験につながります。
 こういったことだけを求めて私たちのもとへ訪れる方はあまり多くはないかもしれません。しかし話の内容的に近しい人には話せないこともあるでしょうし、話せる相手がなかなか見つけられないときなどに、カウンセリングを利用される方はいらっしゃいます。特に近しい人に「自分の重荷を一部持ってもらう」ことに抵抗感・罪悪感が強い方はカウンセリングを利用されることが多いように思います。


2.問題の整理
 これは語られた内容について、臨床心理士と共に整理する作業です。生活している中で悩んでいるけど何が問題なのかわからないと感じることや、自分がどうしたいのかわからない、今どうした方がいいのかわからないと感じる体験は誰しもあるかと思います。また、突発的な出来事・事態に出くわして混乱してしまい、どうしていいかわからなくなることもあるかもしれません。そのようなときに、臨床心理士という他者を用いて、自分自身の混乱を明確にして整理する作業は役に立つと思います。こうしたことをご希望されて来室される方はいらっしゃいます。
 一時的な混乱状態を整理して落ち着けて大まかな方針を立てて終わる、という方は数回で終了することが多いです。


3.助言(別の視点の提供)
 これはその名の通り助言、アドバイスです。相談者様の相談内容について、臨床心理士から助言を行います。基本的には臨床心理学的な視点に基づいたものになります。この助言が「強制」や「正解」、「答え」ではなく、「別の視点の提供」であるということは重要な点でしょう。
 ご相談にいらっしゃる方の思考や見方、認知というものはある方向に少し偏ってしまっている場合があります。その偏りを緩和するのにアドバイスが役立つことがあります。ただし、これは少し偏っている程度のときには有効ですが、「ある見方に囚われている」「偏った見方のまま偏った安定を維持してしまっている」ときなどはあまり効果を感じない場合も多いでしょう。提示されたアドバイスは理解できるけど、そのようにできない!と思われる方も多くいらっしゃいます。そのような状態の場合は、少し長期的に無意識的な面に焦点を当てた面接をする場合もあります。


4. (知的な)理解・気づき
 これは相談者様のご相談の内容に関する、臨床心理学な理解の提供です。当オフィスの場合は特に精神分析的・力動的視点に基づいたものになります。ご相談内容が相談者様の中でどのような関連で生じているか、どういった背景に基づいていそうか、(その問題行動や偏りに)どういった意味があるのか、わかっているのに同じことを繰り返してしまうことの意味は何なのかなどに関する臨床心理学的な理解になります。
 こうした理解はもちろんこちらから提示するものもありますし、相談者様とのやり取りの中でご相談者様自身が自ら気づかれる場合もあります。そして、面接の中で理解が更新されていくことももちろんあります。


5. 症状、問題行動の緩和・消失
 面接の中で特定の症状についての緩和・消失が得られます。これはどういった症状かによってどれくらいの時間がかかるかが異なります。症状に直接働きかけるタイプのアプローチ(認知行動療法、行動療法など)を行うか、間接的に働きかけるタイプのもの(精神分析的心理療法など)を行うかなどで違いもあります。


6. (情緒的体験に基づいた)理解・気づき
 これはある程度長い時間をかけて面接を行う中で得られるものです。心理療法や心理カウンセリングを行っていくと、ご相談者様の苦しみや問題が臨床心理士と相談者様の治療関係の中に同じように見いだされることがあります。
 例えば「自分に自信がないから相手に合わせてしまう」と相談にいらした方がいるとします。その方は面接を継続する中で自信が持てるようになったと感じるようになりましたが、あるときふと、これは臨床心理士からの介入に表面的に合わせ「自信があるように合わせていた」だけではないか、と気づくことがあります。このケースが改善に至っていないことは明らかです。このように面接関係の中にもともとの問題が持ち込まれることはよくあります。持ち込まれると、相談者様の「自信のなさ」が面接室の「今、ここ」で取り扱いやすくなります。こうした情緒や体験のインパクトを用いることで、より実感を伴った自己や他者との接触、そして気づき・理解が生まれます。
 これは特に精神分析的・力動的な心理療法のやり方になります。面接に時間をかけますが、その分改善や変化が一時的なものでなく、長く続くというメリットが指摘されています。

7.悩み考えることの学習
 心理カウンセリング・心理療法は悩みを「消す」というよりも「よりよく悩めるようになる」ためのものだと私は考えています。臨床心理士と共に心理カウンセリング・心理療法を長期的に行うことで、次第にご相談者様自身の中で適切に悩み考えられるようになっていきます。
「悩み・考える機能」が育つ、身につくといった感覚です。




 心理カウンセリング・心理療法の意義や効果について7つ書いてみました。もちろんこのほかにもあるかと思います。また、語る方によっては表現がいろいろ異なるでしょう。
 
 これらは当然ながら、一つ一つが順番に提供されるわけでも、特定の1個だけが提供されるわけでもありません。常に同時並行的に面接の中で動いているものですし、そしてその中で4、5、6、7はある程度面接を継続的に重ねる中で得られるものだといえます。
 
 読んでいただいた方には、臨床心理士が「ただ聴くだけ」ではないということがなんとなくお分かりいただけたのではないかと思います。傾聴に加え、整理・助言・別の視点の提供・臨床心理学的な分析や理解の提示など様々な介入を行います。また、カウンセリングの中での「接触」や「体験」それ自体を取り上げながら感情や考えに触れていったりもします。

 こうした様々な介入を相談者様の状態や目的に合わせて行っていく心理カウンセリング・心理療法は当然のことながら、長期で行うほどに「個別化」していき、「オーダーメイド的な」サービスとなっていきます。ここにカウンセリングを一般化して説明することの難しさがあることはご理解いただけるのではないでしょうか。

 今はこういったカウンセリングについての説明が多くの心理オフィス、カウンセリングルームに書かれています。こうした内容を吟味しながらご自身がしっくりくる機関を選ぶことがカウンセリング機関を選ぶ際の一つの方針になるかと思います。
 ぜひご自身の感覚も大切にご相談先を選んでいただければと思います。

2021年07月09日